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むかし山の中にいてふっと顔をあげると光が木の葉のさらさら揺れる間から漏れていました。木漏れ日がぼくの目の中にはいってきて透明で真っ白な光の糸の束が網膜に映りました。ぼくは一瞬あまりのまばゆさに目を閉じて光の侵入を避けようとしました。
光のまばゆさに皮膚が反応しました。ぼくは頭をぐらぐらと揺らしてしまいました。本当に光のやつめぼくに不意打ちを食らわしてしまったのです。


あぁっ! という感じで目の皮膚を開きからだの内側を開く感覚が起こってきました。
ゆっくりと、あらためてぼくは顔をあげて木の葉の間から漏れてくる光に目をあてました。光の束はぼくの内臓の深くまで刺し込んでいるようでした。そのとき透明な糸の束のようなものがからだからぬけていくような感覚を味わいました。
真っ白なここちよい感情が涌いてきました。野の鳥が甲高くさえずりながらこずえを渡っていくのが聴こえてきました。
光の間で野の鳥二羽がたわむれているのでしょう。さえずりは山の風のなかに深~く吸い込まれていきました。

鳥の姿は見えませんでしたが緑の葉々はかすかな風にこきざみに揺れています。葉の一つひとつが揺れあい重なりあっています。光はその透き間を縫って入ってくるのでした。ぼくの身体は微妙に奮えておりました。
ぼくの皮膚は光と野の鳥がさえずる甲高い声に反応しています。からだのなかの器官が内側からひらかれて山の生気のなかにほどけていく感覚です。開放さされている感覚。からだがもうなくなった感じです。きっと山の生気と交感しているんです。

山の生気に揺らされていく様子は、ぼくが開放へ向かっていく感覚のようです。
からだはふるえてナイフでえぐられたように深淵を見ていました。
その深淵から立ちのぼってくる感じは快感につながっていました。ぼくはからだの中で微妙に揺れ動いている魂を感じていました。

山のなかの陽だまりに山茶花が淡いピンクの花を開いておりました。花芯は黄色いおしべに満たされています。

光を受けた花びらは帷子のようです。しっとり濡れた花芯は困惑しているように見えました。別の魂が花芯に入りこみからだを動かしはじめました。
情動がゆらゆらとした気分を充満しはじめました。花芯は生命の根元を光に向けます。からだの神秘を開示するように全てを開き受け入れています。ぼくには生命とはなにっていう懐疑のような気分がしてきています。
ぼくの懐疑は「なぜここにいるのですか」「どこからきたのですか」「どこへ行こうとしているのですか」……。「ぼくとはいったいなにものなのですか」という疑問を解き明かすこと。

ぼくにはあれら生命生成のときの存在と不在という謎について問い続けられる終わりのない旅のように感じているのです。

ぼくはみんなが生きた痕跡をあかしとして残していくために物語をつくろうと思っています。その物語は花たちのなりわいを明らかにしてあげること。そして光と共生する「存在」を記憶にとどめておいてあげること。
ぼくがいま想起している記憶の像はすでに目の前には喪失してしまったものたちです。もうはるか以前にいなくなった母の記憶が起こされるときすでに不在となったその風景はぼくに生きることの根拠を問うてきます。

母がいた風景が起こされてくるときぼくのからだには悔やみこむ気分がともなってきます。ぼくはからだから起こるその情動とその昇華の軌跡をみつめています。想い起されてくる像は宇宙のまんだら像のように感じています。
これはからだのなかにある無意識の深~い淵なのかもしれないな。この像は無限大の円環を超えていく環のなかにあるような感じです。ぼくが想いをめぐらしているときって……ぼくの想いを介してあらたな生の神話が産まれてきているようなのです。


ぼくのからだの根源は無限大の宇宙へ向かうまなざしと無限小の宇宙へ向かうまなざしとが交感しています。ぼくの根源の疼きは性と情動そのものへとまなざしを傾斜させています。
ぼくのこの感覚っていうのは愛に包みこまれる領域でしかとらえられないのではないでしょうか。ぼくはからだのなかから湧きでてくる境界のない深~い感覚をもって生存しています。この感覚はぼくが想起する不在の記憶像をあれに伝えていくもののようです。
もうこれまであった意味なんて解体しちゃった。その風景に創生。ぼくの物語の根源はぼくたちが出会ってしまったことから始まったんですよね。ぼくたちが宇宙感覚といったあのときっていうのは生命体が発生した瞬間の生命の外界と皮膚との境界面について語っていたようでした。
生命体の起源についての想いはあれが存在するという未知への旅たちとしてとらえればいいのでしょうか。明確に見えていた風景がとつぜん朦朧とした膜の内部の世界へかくれていくときってありますよね。

そのときぼくは大きな光の束を見るようにそうして深~い疼きのような闇の魔をみるように怖れる気分になっているんですよ。この気分って一体なんなのでしょうか。ぶるぶると寒気がするようで熱っぽい気分で全身の髄まで奮えちゃうんです。
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